ぽろぽろこぼれる

888企劃主宰・馬原颯貴からぽろぽろこぼれる言葉を記録する。

「M八七」と「ノンブレス・オブリージュ」。

2023年12月23日、24日に僕が監督したNova Animaのミュージックビデオ(以下、MV)が二作品公開された。

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本記事は、Nova Animaの団長であり、MVの監督である僕という両立場の意見が入り混じったものになることをご承知いただきたい。

そして当然のことながら、その動画の内容にも触れる記事となるわけなので、Nova Animaで公開しているすべての動画を各100万回以上再生して高評価もチャンネル登録も通知もオンにした上で読み進めてもらうのが賢明だろう。

しかしながら毎度のことではあるが、「それを見た一人一人の解釈が全て正しい」という僕の信条は相変わらずなので、僕がここで語ることによってあなたの解釈を変える必要はない。

 


Nova Animaでは毎年の活動としてMVの制作をしているわけだが、この二作品は特に渾身の仕上がりとなったのでぜひ聴いて、観ていただきたい。そりゃあ過去の作品が渾身でなかったかと言われればそんなこともなく、その時々にできる最善を尽くしているのだけれども。

当団体では毎年選曲選挙を行なっており、投票により何曲かの楽曲を合唱編曲することに決めたのだが、今年はこの二曲を先んじてMVにしようとなった。というか僕がそう決めたのである。

去年度に関しては「坂道のメロディ」「愛のシュプリーム!」をMVにした。

 

 

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2022年は選曲選挙で「つむじかぜ」「Violet Snow」も合唱編曲することになったのだが、後者二曲は副次的文化系合唱祭にて演奏披露の機会があったからだ。

 


なお、今年夏に公開した「可愛くてごめん」は懇意にしている田中達也先生の編曲が出版されたので、こりゃあもう歌うしかねえぜという心持ちで1日の練習だけで録音し、普段の練習風景や演奏の様子が見られるような動画となった。

 

 

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さて、今回公開した二本の動画に話を戻そう。

 


「M八七」について

こちらは映画『シン・ウルトラマン』の主題歌である。

「アニメ・ゲームソングを合唱編曲する」というNova Animaであるが、こちらは特撮映画。と言っていいのか? 「ゴジラ-1.0」は特撮なのか、という議論になるのか、巨大怪獣が出れば特撮という定義なのか……そもそも「特殊撮影技術」の略だし……いやいや、こんな話がしたいわけではなく。言わずもがな、以上は個人の感想です。以下も然り。

編曲は田中達也先生。いつもお世話になっております。なかなか難しい旋律である本曲を見事に爽やかな合唱曲へと仕上げていただきました。

 


さて、この曲のMVを作ろうと決めたのは、「なんとなくいい感じのMVになりそうだった」というのが正直な理由である。

前回の録音・撮影の際は、所謂普通の練習施設で行ったが、その分苦労も多かった。今回はJ:COM浦安音楽ホールで録音を行うことで、より良い音楽を収録することに成功した。見目だけでなく、合唱としてのクオリティも求めている。

しかしせっかくホールで録音するのであれば、4時間も借りて二曲歌ってはい終わり、なんてのは寂しくないだろうか。だったら映像もそこで撮りたいじゃないか。コスパ最高じゃん。というわけでホールでの映像も撮ることになる。

そうすると、自ずと物語が目に浮かぶ。初めは合唱、ピアノ、指揮などが映り、客席に一人の男。合唱団とこの男の関係性はどうなるだろう。そんなことを考えながら絵コンテを作成した。ちなみに絵コンテ第一校の完成は、合唱団がこの曲を練習し始める二週間も前である。楽譜がまだ音になる前に絵コンテができている。不思議な状況である。

 


絵コンテを描く時、今回は原曲のMVを見ないようにした。しかし思いのほか似通う部分があったりして(“いまに枯れる花”、出すよね〜)、映像が完成したのちに原曲MVを見て少し嬉しかった。

途中唐突に現れる林檎は、この曲を聴いているうちに必ず出さなければならないと確信した。”それは引き合う孤独の力なら”という歌詞を聞いて、合唱人ならばあの有名な詩人を思い浮かべるはずである。そしてその”孤独の力”といえば、この林檎を出さないわけには行かないだろう。

 


出演をお願いした長谷川裕は、去年ワセグリの定期演奏会で行ったアニメソングミュージカル『合唱(うた)をとりもどせ!!』においてアクションをつけてくれた古くからの親友だ。ラスサビのあたりでネリリし、キルルし、ハララしてくれた他お三方は、彼の選定によるものである。絵コンテ上たった一コマの「このへんでなんかアレやって」みたいな曖昧な指示を、見事に成し遂げてくださった。

ホールでの撮影を最大限利用した今回のMVは、合唱団や役者陣はもちろん、録音技師の三好直樹さんやJ:COM浦安音楽ホールのスタッフの皆さんのご協力がなければ成し得なかった。みなさん、ありがとうございました。

 

 

 

「ノンブレス・オブリージュ」について

こちらはボーカロイド初音ミクが歌唱したピノキオピーの楽曲である。

「アニメ・ゲームソングを合唱編曲する」というNova Animaであるが、こちらはボーカロイドの曲。広義でいえば『プロジェクトセカイ』というゲームで聴くことのできる曲ではあるが、太鼓の達人で聴けるからと言って『天国と地獄』をゲーム音楽だという人はいないだろう。というわけで今回の二曲により、Nova Animaの演奏曲自体の定義が「アニメ・ゲーム・特撮・ボカロ曲を合唱編曲する」となってしまったが、そんなことはどうでもいい。よく考えれば米津玄師も元はボカロPだったし……。

編曲は森山至貴先生。いつもお世話になっております。この曲を合唱編曲できるのはあなたしかいません。合唱団ばかりでなく印刷機すら悲鳴をあげる真っ黒な譜面をどうもありがとうございます。我々の業界ではご褒美です。

 


さて、この曲のMVを作ろうと決めたのは、「絶対にやばいMVになりそうだった」というのが本当に正直な理由である。

原曲、そして合唱になったこの曲を聴いてもらえばわかるが、ボーカロイドならではの、タイトル通りノンブレスなサビ、細かすぎて歌えない符割選手権開催中と言いたくなる早口、魂と脳が揺さぶられる強い歌詞、全てが合唱にふさわしくなく、それが故にふさわしい。

 


先ほど選曲選挙の話をしたが、この曲を提案したのはそもそも僕である。ピノキオピーは僕のApple Musicで聞いた回数アーティスト部門TOP5に入る。いつかこの曲を歌いたいと一億と2000年前から思っていた。

というわけでこの曲に関しては、原曲MVを見ずに絵コンテを描くだなんてことは不可能だったわけである。すでにもう何度も何度も見てしまっているのだ。しかし、できるだけこの原曲MVから離れようとする作為があると、それはそれで作品にとって邪魔になってしまう。合唱になった「ノンブレス・オブリージュ」から得られるインスピレーションが、原曲MVに似てしまっても、それはもうどうしようもないんだと諦めた。「原曲MVと似てるからこのシーンは外そう」「ここは寄せよう」「ちょっと違うことしてみよう」という作為が入らないよう、フラットな立場で絵コンテ作成に臨んだのである。

 


出演をお願いした夏井魚々子は以前共演した付き合いの長い役者である。現在舞台役者の活動は休止しているが、なんとか騙くらかして出演してもらえることになった。彼女のような凛とした、しかし弱い部分も見せられる、裏表を言葉以外で表現できる役者が、今作には必要だった。動画制作に関しても知識が豊富で、演じる側だけでなく作る側の視点でもいい意見をいただいた。

このMVでは、合唱団が歌っているシーンを入れるべきかどうかを非常に悩んだ。生身の人間が歌っている様子というのは、この曲においては邪魔になってしまうのではないかという危惧もあり、撮影の日までは入れないつもりでいた。しかし団員がしっかりと演出の意図を理解してくれて、「M八七」の時とは別の表情、雰囲気を作ってくれたおかげで、合唱のシーンを入れた方が効果的であると判断することになった。

 


「M八七」では、「外側と、その外側」が僕の中でのテーマだったが、「ノンブレス・オブリージュ」では「外側と内側」がテーマである。"息が詰まる"外側があり、内側には安全地帯がある。映画を見るように外側を眺めていられる。そんな内側の存在を描いてみた。皆さんの目には、どう映っただろうか。

 

 

 

 


そういうわけで、思った以上に思ったことができたのが今作二つのMVである。

これは組織の運営的な、生々しい話になってしまうが、「合唱のMV作りたいです!」と言ってはいどうぞ予算あげますというようなゆるい合唱団ではない。録音にかかる諸費用、撮影・役者への謝礼、小道具、エトセトラエトセトラ。色々な物事にお金というものがかかってくるが、前回に関しては、初めてのことで、どれくらいのものが出来上がるのかもわからない、そんな団長の戯言に割ける予算が無尽蔵にあるわけでもない。

どいういうことかというと、ぶっちゃけ去年度の「坂道のメロディ」「愛のシュプリーム!」に関しては、かなりの低予算で製作したのである。欲を言えばホールで録音したかったし、いい撮影機材で、いい環境で動画撮影もしたかった。お金をかければかけるだけ、ある程度は比例する形で作品の質も上がるはずだ。しかしそういうわけにもいかないので、録音が練習室だったり、撮影がその辺の河原だったり、野外の舞台でノーセットだったりしたわけだ。

(それでも、払うべきところにはしっかりお金を払っているということは明記しておこう。断言するが、大石亜美はそういった事情で呼んでいるわけでは決してなく、僕のイメージに限りなく近かったのでキャスティングした。)

 


そんな予算は団員からの、オンステ費という名の参加料で賄っているわけである。前回である程度MVというものの全貌が見えてきて、「前回はあれくらいの金額であれくらいのものができました、今回はもう少し多めにいただければ、もっといいものができますよ」というプレゼンを経て、大幅に予算が増え、ホールやスタジオ、ミニシアターでの撮影などをするに至ったのだ。

それでも正直団員からのオンステ費は上限いっぱいいただいていて、これ以上の予算増は難しい……なんて話をして、一体何が言いたいのかというと、もうこれは長ったらしく回りくどくて申し訳ないが、単なる言い訳である。

 


世に出ているアーティストは、僕たちと比べ物にならないほどの予算の中で、MVやPVを作っている。

それはその動画を作ることで、CDが売れ、ストリーミング再生され、広告収入が入り、利益になるから、還元されるからである。

僕らの動画は非営利だし、お金を稼ぐことが目的ではなく、純粋な好きの気持ちで作っている。いや、どちらが偉いとかそういう話ではない。

団員はアニソン(他略)が好きで、合唱が好きで、好きなことをやっていて。その一人である僕が、合唱ってこんなにかっこいいんだ、ということをみなさんに知って欲しくて、MVを作って。

拙い部分もあるかもしれない、詰めが甘いなあとか、もっとこうすればいいじゃんとか、細かいところが気になったり、もしかすると大きいところも気になったりするかもしれないけれど。

まあでも、僕なりに全力を出して作った作品だし、当然団員たちも、できる限りの努力をして、可能な限り好きを歌に込めた、そんな動画になったのだ。

原曲が好きなかたも、合唱が好きな方も、どちらも別にどうでもいい人も。

僕たちの動画を見て、ちょっとでも好きが伝わって、伝染ってくれると、嬉しい。

アニソン合唱、かっこいいぞ。